文禍論

 

これはつい最近の話なのですが、亡くなった父方の祖父の遺品整理をしていたら、なにやら珍妙な古書物?を見つけました。

 

書物とは一応そう書いたもののそう言うにはあまりにもお粗末な装丁で、数枚の紙を紐で綴じただけの薄さも相まって、より正確に述べようとするのなら、たとえば細々と流通している同人誌のような印象を覚えたと書いておけばとりあえず近いイメージを喚起しやすいかと思います。啓蒙を目的として頒布されたものだろうかと思うのだけれど、特に値段も書かれていないと。表紙には筆書きであろう『文禍論』とかろうじて読める奇妙な字が踊っていまして、少し開いて文面を読むと字体がやや古めかしい事がすぐわかった程度、時代が特定できるほどでもなく、また巻末には発行元も記載されていませんでした。読もうとしてみると、これがまた、とにかく目がちかちかするので困ったのでした。何を言っているのかはそのうち解ると思います。

で、遺品の処遇は自分に一任されていたのでなにやら良さそうな物があれば勝手に頂戴しても別に良いとの話だったし、実際少なからない量の遺品をそうしたのだけれども、この書物の処遇にはちょっとだけ思案しました。書き殴られた筆文字から感ぜられるなにやら湿った嫌な情熱はそばに置いておきたい種類のものではなかったし、このまま捨て置くには修辞があまりにも喧しいので、これは手に負えんと祖父に訊いてみようと思ったけれど、そういえばもういないんだったっけなと思ったのでした。

結局はどうなったのか、その顛末としてこの文書がここにあるのだけど、仰々しい言い方を選べば電子化することにしたのであって、つまりはtxtファイルに起こしててきとうに電網の海に放流することにしたのでありました。この本の著者の意志を尊重するつもりは毛頭ないのだけれど、これからの可能性未来のなかで、不特定の誰かの琴線にこの珍妙奇天烈な文章のなにかが触れるのであれば、まあ、こんな紙にされた哀れなどこかの木の怨念くらいは晴れるでしょうか。

 

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矢澤にこ誕生日記念のSS

(私が矢澤にこちゃんの誕生日に合わせるようにして書き上げた、ラブライブ!の二次創作の妄想小説です)


「あ~~!もう!雨降りすぎだよ~!」

見上げれば一面の曇天。梅雨明けにも関わらずしつこく降り続ける雨をファストフード店の窓から横目でちらりと見、穂乃果がふくれ面で言う。
「仕方ないですよ。暦の上では梅雨が明けたとはいえ、それすなわち、雨が降らなくなるという事ではありませんから」
「そんなこと知ってるよ~、穂乃果のことバカにしてるでしょ!もう、海未ちゃんはそーゆートコロいちいちうるさいんだから~」
「う、うるさいって穂乃果...私はただちゃんとした事実をですね..」
穂乃果の言葉にむっとする海未をまあまあ、と凛が宥める。
「穂乃果ちゃんがそう言うのも仕方ないにゃ。凛たち最近雨続きでお外で目一杯体を動かせなくて、う~んとウップンが溜まってるんだにゃ」
「そうだよ!穂乃果たちは、この感情をどこにぶつければいいの!海未ちゃんっ!なんとかしてよ!」
「なんとかしてって、あのですね、私は神様じゃないですよ!」
「はあ、バカねーほんとに。天気の事をここでどうこう言ったって、そんなのどうしようもないでしょーが」
呆れ顔のにこがポテトをひとつつまむ。
「それにアンタたち、トップアイドル目指してるんなら、どんなコンディションでも文句を言わず、自分のベストの練習をする!こ・れ・が、一流のアイドルってものでしょ、そんな事もわからないの?まったく」
と、穂乃果をポテトで指して険しい顔で言うのだ。
「ふわぁ~!流石にこ先輩...なるほど...フムフム...」
花陽がどこから取り出したのか、ペンとメモ帳を取り出してにこの言葉をメモする。
「む~、そんな事言って~!そーゆーにこちゃんだって今日の練習の時、どうせ雨が降ってるんだから室内でのダンス練習なんか程々でいいわよ、って言ってたじゃん!」
「えっ?そ、そんな事言ってたかしら...」
「絶対言ってたにゃ!凛もその言葉、この目この耳で、ちゃんと見た!聞いてたよ!」
「う....つ、つまり、アイドルたるもの努力のペースの配分をしっかりして、手を抜く所はちゃんと手を抜く必要があるって事よ...!」
「えー?さっきと言ってる事違うよ~!」
「ええ~い!うるさ~い!!」
「あー!開き直ったにゃー!」
「しかし、にこの言う事にも一理あります。全力を出せない時は無理をせず、出せる時に全力を出すのがやはり重要です。そういう練習プランを立てましょう!具体的にはそうですね、たとえば休日はみんな時間がいっぱいありますから、体力作りのためにランニングを毎週20kmづつ、そしてこれを一日に二セット...」
「「「えええ~~~!?」」」
「あはは、海未ちゃん、それはちょっとやりすぎじゃないかな...」
海未の言葉を聞いたことりが苦笑する。
練習後の解放感あふれる夕どき、穂乃果たちはμ'sメンバー行きつけのファーストフード店で疲れた身体を癒す団欒の時を過ごしていた。真姫は勉強があるからと早めに帰り、絵里は生徒会の仕事が残っているからと言い学校に残ったので、ここには真姫と絵里を除く7人、穂乃果、海未、ことり、凛、花陽、にこ、希がいた。
年頃の女の子たちの、話すことは尽きることはない。練習のこと、憧れのアイドルのこと、おいしいお菓子のこと、可愛い服のこと、学校での授業のこと...そんな他愛のない会話を友達と積み重ねていく事が、ただひたすらに楽しい。そんな特別な、もっとも、それが特別であったとわかるのはもっと先の事になるのだが、彼女たちはそういう時間を享受する事を許されている、そんな誰にでもあった運命の女神に特別に愛される期間を、たった今過ごしているのだった。
「そういえば希ちゃん、さっきから黙っててどうしたの?」
黙って喧騒のそとでその様を眺めている希を、ことりが怪訝そうに見つめた。
「ううん、いや、なんでもあらへんよ?心配してくれたん?ありがとうな」
希が微笑んで言葉を返す。
「ただなあ、ちょっと感慨にふけってたんよ。ああいうふうに仲間と楽しそうにしてるにこっちを見てるとな、ちょっと、昔のにこっちを思い出してしまって」
「むかし?」
希はにこを見ながら、ひとり思い返していた。そういえば、ここに、9人のμ'sができるまでに、いろんな事があった。ほんとうにいろんな事が。様々な人間の、様々な出来事の、様々な巡り合わせがあって、いまこうしてこのひと時がある。たとえそれがただの偶然の積み重なりであったとしても...希はやはり、そこに運命という、なにか特別なものを感じずにはいられなかった。特別な九色の、運命の糸の撚り合せ。そんな運命といったものがもしあるとするなら、それはずっと前から始まっていたのだろう。たとえば、そう、わたしが音ノ木に入学したばかりの、ちょうどあのころから....

アニメ「ラブライブ!」は矢澤にこの物語であることを私が主張するいくつかの理由

はじめに
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 アニメ版「ラブライブ!」が2013年一月に放映開始され、先日最終回を迎えた。私は最終回を見て、アニメ版「ラブライブ!」は矢澤にこの物語であると確信した。

 その理由をこれから述べていくにあたって、ひとつ注意すべき所がある。電撃G'sマガジン誌上で展開されている読者参加型企画「ラブライブ!」とアニメ版『ラブライブ!』にはキャラクター設定にいくつかの差異がある。そもそもラブライブ!のオリジンは誌上版のほうにあり、アニメは公式ではあるものの、企画自体は後発のもので、アニメ以前にも誌上版でラブライブはボイスドラマCDや誌上でのある程度ストーリー性を持った連載など独自の展開がなされていた。しかし、アニメ化にあたってシリーズ構成に花田十輝を新しく迎えたアニメ版「ラブライブ!」は、ストーリーの構成の都合上、誌上版とは少し異なったキャラクター設定がなされている。アニメ版「ラブライブ!」とその他の媒体で展開されている*1ラブライブ!」で同キャラクター間でも設定が食い違う事があり、私が多岐にわたるラブライブ媒体のなかからあくまでアニメ版のキャラクター描写を参考にするのは、そういう理由があるからである。*2

 本稿ではその前提を踏まえた上で、アニメ版「ラブライブ!」(以下「ラブライブ!」)は矢澤にこの物語であると私が確信した理由を述べていく。

*1:例えば漫画版は、公式でありながらもアニメや誌上ともまた違った設定になっている。

*2:私が、アニメ版ラブライブからラブライブを知ったので、雑誌が中心となるアニメ以前の資料を殆ど入手できなかったのも大きな理由、というかそれが本理由。

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