アウェーキング・オブ・ラブライブおじさん

(※太古の昔にツイッターに書きなぐった文をサルベージしたので何となくまとめたものです。不自然に段落が区切ってあるのはその名残です。)
(※くだらない内容です。)
 

 

 
オレの名前はジョニー。オレは至って普通の、学業優秀スポーツ万能で、教授から将来を嘱望されているカレッジ・ステューデント、換言するなら、この国の財産というヤツかナ。オレはカレッジの課題を終わらせて、自宅のマンションのベランダでガールフレンドのキャシーとのディナーを楽しんでいた。
パスタを茹でて、上物のミモレットの香りを楽しみながら、ワイングラスを傾ける。しこたま料理に舌鼓を打ち、やがてオレは輸入品の新しい葉巻を一本切る。そののち、全身に快い酔いが回ってくる、そんなときオレたちが決まって話すのは、あのラブライブの話だ。
 
「オレ、今月スクフェスに5万もつぎ込んじまったよ。でもほとんどゴミキャラさ。チクショウ」「アハハ、ジョニー、あなたラブライバーの鑑ね。カレッジでもあなたにかなう人間なんていないわよ」「まあね。この位はできてやっとラブライバーって奴だな。全くとんだドブライブだぜ」
「なんだとォーッ」
聞き慣れない声がどこかから響いた。「な、なんだ?」オレはあわてて声の主を探した、が、いる筈もないだろう。ここは高層マンションの9階で、しかもオレの自宅、プライベート空間なんだ。「いま、ドブライブなどという言葉を口にしたのは誰かッ」「ジョニー!外を見て!」
アンビリーバブル!ベランダに目を向けると、そこには目を疑う光景が広がっていた。都心の高層マンションの九階のベランダの手すりの下から、男がひとり、顔だけを覗かせているのだ。あまりの光景に凍りついたオレたちは、その男が次に口を開きやがるのをただ見ていることしかできなかった。「俺はラブライブおじさんだ」「はあ?ラブライブおじさん?」
ラブライブおじさんと名乗った男は、なんと驚異的な身体能力か!腕の力だけで手摺にすっかり身体を乗り出し、その勢いでオレたちのいるベランダに躍り出る。全貌を表したラブライブおじさんは、まさに異様そのものだった。禿げ上がった頭に焦点の定まらない両目。不潔かつ精悍さを欠いただらしのない体。それとすぐわかるのは、彼がほとんど身に何も身につけていないからなのだ。ただ一つ、縒れた薄汚い黄ばんだブリーフ以外は。
 
「今、ドブライブと言ったのは貴様か」「そうだ」オレはわずかに働く脳ミソの思考判断領域をフル回転し慎重に答えた。この男を刺激することは得策ではない。何の回答を期待しているかは知らんが、とりあえずは正直に答えるのが最善か。「君がラブライブ・ファンであるならば、なぜ、ドブライブなどという、明らかに不愉快を滲ませた造語を使う?」
「オレはスクフェスで5万溶かしちまったんだよ。それで、ゴミみたいなカードしか出なかったんだ。そりゃドブライブとも言いたくなるよ。そのまま金をドブに捨てたようなもんだからな」「わからない。何故そんな思考になる?貴様は楽しむために、望んでお金を払ったんじゃないのか?一体何を恨んでいるんだ?楽しみは損得感情で計れるものなのか?愛とは金額の多寡で計れるものだろうか?自らを追い込んでまで金をつぎ込む、それが本当のファンと言うものなのだろうか?」「何を偉そうな事を抜かしてんのよ。ジョニーは今月だけで5万もラブライブにつぎ込んだのよ?あんたなんかよりラブライバーの鑑よ」
「ファッキンビッチ!」ラブライブおじさんは突然激昂し、言うが早いか、どこから取り出したのか、しなったムチが空を切り、指差したキャシーの手をピシャリと叩く。「アウチ!」「ブルズアイ!てめーのガバマンに俺のフィストを突っ込んでハメ殺してやろうか、このクソアバズレが!」
 
「なっ、何をするんだっ!」まさかキャシーに手を出すとは。うかつだった。こいつには容赦も分別もない。完全に狂っているんだ。ラブライブおじさんは気味の悪い落ち着いた口調をはじめた。
「金額の多寡を自慢するのは馬鹿にありがちな思考だ。金は馬鹿でも使えるからな。堕落の小売、意地汚い露悪趣味だ。金を使うことでしか自らを表現できぬ馬鹿どもから口だけの賞賛を得て悦に入る。賭博で何万スッただのと自慢げに抜かす阿呆どもと同じ思考だ。貴様らにとってラブライブなど、くだらない承認欲求を満たすただの対象物でしかないのだ。ただ流行り物であればなんでも良いのだろう。」
身振り手振りの仰々しいこと。変人の演説は続く。「貴様らのようなラブライバーをやたらと称揚する人間などそもそも胡散臭いのだ。自分の今の位置、身分をやたらと主張したがるのは、移り気質、ファッション気取り、そういった奴らの普遍的特徴だ。ころころと立ち位置を変えているから、その度に自らの立場をいちいち主張せずにはいられないのだ。どうせ流行りものに食いついて、オレは何々フリークだのとさんざ主張し食い荒らした挙句、飽きればまた何事もなかったかのように他の物に食いついていくのだろう。貴様らはイナゴのような連中だ。そんな人間に、ラブライブファンを名乗る資格などない。とっとと別の趣味に移るのだな。目障りだ。」
 
「さっかから黙って聞いていれば、随分と言ってくれるじゃあないか」オレは流石に我慢ならなかった。コイツは危険だ。しかし、オレはさんざ御高説を垂れらてハイごもっともで御座いと素直に引き下がれるような人間じゃあない。「オレの事をイナゴと抜かしてくれたな。しかし、イナゴで何が悪いのだ。そうさ、オレにとってラブライブはいっときの水物のコンテンツだ。しかし、オレたちがこうして金を落としてやるからコンテンツが持続するのだ。うだうだ愛と抜かしやがって、愛などという不定形の資本じゃコンテンツは持続できない。そして、金を使うのに愛の有無など必要ない。」「なんだとぉーっ」
「それにオレたちは、お前みたいにラブライブに全霊を捧げようなんて思っちゃあいない。オレにとってラブライブは、ワインを飲む時に軽くつまむ、ミモレットと同じようなものだ。それ以上のものは求めていない。近寄るものに自らの態度を押し付けようとするお前はただのコンテンツのガンだ」
「貴様ァーッ」刹那、空を切るムチ!だがオレは不意打ちは二度は食わん。それを野生の勘で避け、カウンターに軍隊仕込みのアッパーカット(雷属性)をヤツのジョーに食らわせてやった。ヤツはグエーッと赤塚不二夫キャラみたいな叫び声を上げダウンし、そのままぴくりとも動かなくなった。
 
オレたちがまた落ち着いて食卓に腰を着けたのは、ようやっと動かなくなったヤツを玄関に運んで放り出したあとだった。キャシーがため息をつく。
「全く、とんだ災難だったわ」「まあまあ。オレたちはたまたま不幸な事故にあった、そう思ってそれで終わりだ。このことはすっぱりと忘れよう。それより、早く注いだワインを飲んじまおう。放っておいて、美味しくなるものでもないしな」
(#12 アウェイキング・オブ・ラブライブおじさん 終)